スイスの循環型経済

現在の直線型経済モデルは「take-make-waste」の原則に支配されています。その結果、生態系や天然資源への圧力が増しています。直線型経済モデルは、資源不足や資源の浪費を生み、最後には気候変動や生物多様性損失などの環境危機が生じます。人類は地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)を超えつつあり、これにより大規模かつ急激な、または不可逆的な環境変化が起こるリスクが増大しています。地球の限界内に留まるために、先進工業国は、どのような資源消費量を減らす努力が必要でしょうか。その答えの一つとなる経済形態が、「循環型経済」です。

循環型経済は、直線型経済モデルを変えることにより人類が持続的に発展を遂げ、来たるべき世代の繁栄につながる経済が実現されるということを意味します。目標は、資源を効率的に、またできる限り長期間利用できるクローズドループのシステムとなります。また、循環型経済は、巨大な事業機会をもたらすとともに、長期的な目で見ると、回復力のある社会と豊かな生態系の一端を担う者として、企業を成功に導く方策となります。長きにわたり、環境・廃棄物処理政策という点では最先進国のうちの1つとされてきたスイスに、この循環型経済においてどれほどの優位性が存在し、日本企業やその欧州事業にどのような好機をもたらすのでしょうか。スイスの環境コンサルティング企業ecosの専門知識提供のもと、スイス・ビジネス・ハブが監修して制作された日本企業向けレポート「スイスの循環型経済」を、ぜひご活用ください。

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1 循環型経済(サーキュラーエコノミー、CE)の概説


11 直線型経済モデルの限界

現在の直線型経済モデルは「take-make-waste」の原則に支配されている。つまり、原料を採取する (take)に始まり、製造した(make)製品が販売、消費されて、最終的には廃棄される(waste)。その結果、生態系や天然資源への圧力が増す。直線型経済モデルは、資源不足や資源の浪費を生み、最後には気候変動や生物多様性損失などの環境危機が生じる。人類は地球の限界(プラネタリー・バウン ダリー)を超えつつあるが、これにより大規模かつ急激な、または不可逆的な環境変化が起こるリスクが増している。地球の限界内に留まるためには、先進工業国は現在の資源消費量を最大で3分の2に減らす必要がある。

12 循環型経済-将来のパラダイム

循環型経済は、直線型経済モデルを変えることにより人類が持続的に発展を遂げ、来たるべき世代の繁栄につながる経済が実現されるということを意味する。目標は、資源を効率的に、またできる限り長期間利 用できるクローズドループのシステムである。この結果、原材料に対する需要に加え、排出物や廃棄物の発 生も最小限に抑えられる再生型システムができる。

したがって循環型経済は、再生利用の枠をはるかに超え、原料の抽出に始まり製造や製品設計、 流通や取引、消費や回収システムの利用、再生利用や廃棄物処理にいたるまで、バリューチェーンの全段階を考慮に入れていることになる。

循環型経済へ移行するには、直線型経済が与えるマイナスの影響を減らせるよう調整するだけでは 足りない。むしろ、資源を保護し、さらに回復力のある経済とし、事業機会や経済的機会を創出し、環境的・社会的便益をもたらすような組織的変化でなければならない。

13 循環型経済の基本原則

循環型経済分野の代表的なシンクタンクの1つであるエレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation)は、循環型経済の基本原則を系統図に図式化した(図1を参照)。この図は、バリューチェーンを通じた技術的・生物学的物質の連続的な流れを示している。持続可能な循環型経済の重要な基本的要件の1つは、全てのプロセスで再生可能資源から得たエネルギーを主に利用していることである。サイクル時間に加え、製品、資源、および材料の価値を最大化するために、サイクルの速度を落とし、サイクルを減らして閉じることを目的として、さまざまな戦略が使われている。

 図 1:循環型経済系統図 出典:Ellen MacArthur Foundation (2019), http://www.ellenmacarthurfoundation.org/スイスの循環型経済 5/24 ページ
図 1:循環型経済系統図 出典:Ellen MacArthur Foundation (2019), http://www.ellenmacarthurfoundation.org/スイスの循環型経済 5/24 ページ

系統図の左側は生物学的循環を表しており、食物、天然繊維、木材などの再生可能資源で構成されている。このサイクルは生物圏との密接な関わりを特徴とする。バイオ素材は、例えば農業や林業などにより生物圏から抽出され、その後消費者の手に渡って使用される。(複数の)材料を直列つなぎにし、 同じバイオ素材を精力的に利用するバイオマスの連鎖を使えば、資源効率を最大化できる。利用後には、構成成分は生物圏に戻される。微生物がそれを引き継ぎ、生物学的過程を経て処理・分解する。生物学的循環を持続的に機能させるためには、非毒性物質を使用すること、自然体系の再生率を超えないことが極めて重要である。最終目標は、生態系を脅かすことなく、生態系の資源を効率的に利用しながらその再生と強化に寄与することである。

系統図の右側は、再生不可能な原料(例:プラスチック、金属、合成化学物質)を用いた技術 的サイクルを示している。こういった材料を生物圏に戻す場合、必ず価値の損失が生じ、環境にも影響を与 える。これが、閉鎖系の中でそれらの価値をできる限り長く持続させなければならない理由である。技術的 サイクルの中では、物質の寿命を延ばすためにいわゆる「カスケード利用」と呼ばれるさまざまな戦略が利用されている。つまり、再利用、再分配、修復、改修、再製造、別目的での利用、再生利用である。再生利用を含め、より資源集約的なプロセスとするために、低エネルギーや資源需要による戦略の優先順位付けを行った。この系統図から、循環型経済には、生物学的・技術的サイクルが持つ異なる特徴を考慮し、バリューチェーン全体を対象とした体系的アプローチが必要であることが明らかとなった。

さらに、NGOである Circle Economy[1]による詳細な文献レビューに基づき示された、下記に挙げる循環型経済の8つの重要な要素は、指針として十分に役立つと考えられる:

  • 再生資源の優先順位付けを行う:再生可能、再利用可能な非毒性資源を、効率的な方法で、材 料として、またエネルギー用として確実に利用する。
  • 寿命を延ばす:資源を使用している間に、資源の寿命を最長にするため、それを維持、修復、改良し、該当する場合には回収戦略を通じて再生させる。
  • 廃棄物を資源として使用する:廃棄物の流れを二次資源ソースとして利用し、再利用・再生利用のために廃棄物を回収する。
  • ビジネスモデルを再検討する:より大きな価値を創出する機会を検討し、製品とサービスの相互関係に基づくビジネスモデルを通じてインセンティブを調整する。
  • チームを結成し、共同価値を創出する:組織内で、さらには公共部門と、バリューチェーン全体にわたり協力し、透明性を高め、共同価値を創出する。
  • 将来に向けて計画する:適切な材料を使用するため、適切な寿命を設計するため、また将来的な使用期間の延長につながる設計とするため、設計プロセスの間にシステムの展望を明らかにする。
  • デジタル技術を取り入れる:資源利用を追跡・最適化し、理解の助けとなる、デジタル、オンラインプラットフォーム、技術を通じて、バリューチェーンの関係者同士の連携を強化する。
  • 知識を強化・発展させる:高い道徳・倫理的原則と価値観に基づいて研究を進め、知識を構築し、 イノベーションネットワークを促進し、知見を広める。

14 ビジネスは循環型経済からいかに利益を享受できるか?

循環型経済は、巨大な事業機会をもたらすとともに、長期的な目で見ると、回復力のある社会と豊かな生態系の一端を担う者として、企業を成功に導く方策となる:

  • 回復力の向上とリスクの軽減。例えば、供給業者との長期的関係、利害関係者のマネジメント、サプライチェーンの再地域化、材料をサイクルの中に留めておくことによって商品価格の変動を避けることなどによる。
  • 循環型経済のビジネスモデルを通じた顧客維持の強化。
  • 循環型デザインと循環型のビジネスモデルをデジタル技術と組み合わせた、製品の「循環性」に取り組むことによるイノベーションの活性化。
  • 資源効率と製品品質の向上を通じた、エネルギー、製造、材料、および保証にかかる費用の節減。
  • 環境保護や気候保護に関する規制への積極的な対応、法律の厳格化の導入経験。
  • 消費者意識の高まりや健康かつ持続可能な生活様式の増加傾向への対応。
  • 環境や製品・サービスの質の向上を目指し責任を負うことにより、評価、信頼、経営者の魅力が増す。
  • バリューチェーン全体にわたるイノベーションとコスト削減の可能性の相乗効果の創出。
  • 金属の都市鉱山といった、新しくできた貴重な原料源の活用。
  • 気候変動の緩和と将来的に全体的な危機が生じるリスクの軽減に寄与。
  • 地域の経済部門、地域ビジネス、地域レベルでの雇用の強化への寄与。
     

[1] 参照:https://www.circle-economy.com/circular-economy/key-elements スイスの循環型経済 6/24 ページ

2 スイスの循環型経済の枠組み条件

21 岐路に立つスイス

スイスは長きにわたり、環境・廃棄物処理政策という点では最先進国のうちの1つとされてきた。1980~90 年代に定めた、回収、価値維持策、廃棄物の除去のためのしっかりとした枠組みのおかげで、スイスは世界の再生利用チャンピオンとして知られている。しかしながらスイスは、原料の消費レベルが高く、一人当たりの 一般廃棄物の産出量に関して言うと OECD諸国の中でも最も多い国の中に入っている[2]。これについては、一人当たりの国民所得の高さに伴って消費レベルが高いことから容易にその理由が説明できるが、スイスでは現在、一貫した一連の政策を策定するという課題に直面している。その目的は、気候変動目標と整合し、循環型経済の全ての戦略を最大限に活用した、生産・消費という点からの、さらに持続可能なパタ ーンの確立にある。

22 廃棄物処理から循環型経済へ

近隣諸国と比べ、スイスでは、循環型経済(CE)という概念がその政策課題として持ち上がった時期がかなり遅かった。それにもかかわらず、再生利用が課題であるという認識は広まっているが、製品、その構成物質、材料を長く使用する(例:修復、再利用…)ことを目指した、材料とエネルギーの流れの「減速」などのCE戦略への取り組みは依然として不十分である。とは言うものの、地域から地方、さらには全国レベルで、また数年の間に社会のあらゆる部門に届くほど、全てのレベルで個々の取り組みや提案が多数行われてきた。

23 スイスの政界、経済界、市民社会の現在の情勢

例えば政治レベルでは、連邦議会では現在、CEの殆どの側面をカバーする多数の介入を通じてCEを強力に推し進めている。具体的にその範囲は、資源ループの閉鎖(材料と熱の価値維持策)という従来の戦略から、特定の材料(プラスチックの持続可能な管理、食品廃棄物に対する行動計画等)に関する問題、材料の流れの減速(予備部品の利用可能性、修理可能性指数等)に関する規定に加え、循環性に向けた移行の原動力や障害に対処する広範なCE戦略までと、幅広い。これらの介入の多くはまだ、長く続く意思決定プロセスの始めの段階にあるものの、初期の成果の中には既に確認されているものもある。例えば、「スイスの循環型経済の強化」と題した議会による取り組みは、材料の価値維持策を支え、持続可能な消費と CEを促進するよう、資源の利用効率を上げることを目指した法改正につながった[3]

興味深いことに、CEを支持するこういった傾向は、政治団体からなる幅広い連合体に端を発している。その連合体では、環境・持続可能性に関する問題と、経済とイノベーションの両方の点から見た課題との間の潜在的関連性を見いだし、スイス経済が持つ強み(例:確固たる研究やイノベーション、高品質の 製品を中心とする製造部門等)を強化する一つの手段として捉えている。この傾向は、循環型のビジネス モデルへ移行しようとしている中小企業から大手の多国籍企業、さらには経済的機会が得られると強調する影響力のある経済団体を含む経済界によって支持され、後押しもされている。多くの市民社会団体もこの傾向を支持している。それは、CEへ移行しようと取り組んでいる多数の団体を結び付けるスイス全土を 網羅するCircular Economy Switzerland[4]運動の発生でも実証されている。

24 将来の展望

国内市場規模が小さく輸出志向型経済の国であるという理由で、欧州連合によるCE行動計画(2015 年、2020 年)[5]および規制(例:使い捨てプラスチックに関する規制)と整合するしっかりとしたCE 枠組み条件を構築することが、スイスにとっては最優先となる。スイスには既に多くの成功要因がある一方、移行は、既存のエンド・オブ・パイプや廃棄物処理という観点を超えて動く力が政策立案者にあるかどうかにかかっている。その具体的な目標は、気候や生物多様性に関する目標を達成し、生産者責任を担保すると同時に、製品や材料のライフサイクル全体を中心とした新世代の環境政策を策定することにある。但し、移行に関わる全ての利害関係者団体、すなわち、公的機関や、経済界、科学界、市民社会の関係者を対象とした話し合いと協調的な意思疎通がなされた場合にのみ、これを達成できる。いずれにせよ、明確な CE 枠組み条件により新たな土俵ができ、スイスの競争優位性に加え、品質やイノベーションという点からスイス 企業が確立した定評が強化されることになる。それと同時に、これらの条件は、地球の限界内で持続可能 な活気のある経済を確立する一助となると考えられる。

 

[2]参照:“Environment Switzerland 2018 – Report of the Federal Council” (2018), Bern. https://www.bafu.admin.ch/bafu/en/home/state/publications-on-the-state-…
[3] 参照: https://www.parlament.ch/de/ratsbetrieb/suche-curia-vista/geschaeft?AffairId=20200433
[4] 参照: https://circular-economy-switzerland.ch/?lang=en
[5] 参照: https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/

3 優良事例

循環型経済への移行は、製品設計や経済モデルを再検討している勇気ある事業主や研究者による先駆的取り組みに基づいている。以下に、革新的なイノベーションを通じて循環型経済の重要原則を取り入れ、スイスで実施された優れたプロジェクトを挙げる。そのイノベーションの具体的な例としては、電気自動車 用電池の改良、大気から二酸化炭素を濾過して除去する環境保全技術の開発、生物分解性プラスチッ クの開発、さらには太陽光発電所の保全管理のためのAI技術のトレーニングなどがある。今後まだまだ道のりは長いが、これらの実例はスイスが循環型経済へと進む道筋の中で今までになされた革新的な取り組みを高く評価することを目指したものであるとともに、さらに回復力があり持続可能な経済とするために、こういった取り組みへの参加を希望する者を鼓舞し意欲を起こさせるものとなる。

 

31 Batteries2020:電気自動車で使用するリチウムイオン電池の寿 命を延ばすことを目的とした企業連合(化学業界)

Batteries2020は、共同価値の創出、知識の発展、将来に向けた設計の支援を目的とした連合体である。フランス語圏スイスの電池メーカーであるルクランシェ(Leclanché SA)社は、スペイン、デンマーク、イタリ ア、ベルギー、ドイツの企業8社と協同で高性能かつ耐久性のある電池を開発した。これにより電気自動車用のリチウムイオン電池の性能の向上、長寿命化、総維持費削減を目指したのである。それと並行して、この企業連合は、確実な寿命予測、経年劣化現象の把握、再生可能エネルギー利用における二次利用評価のための研究を実施した。このプロジェクトには、欧州連合のエコイノベーション・イニシアチブが共同出資している。 このプロジェクトは、リチウムイオン電池の費用効率、有用性、エネルギー効率の向上、電気自動車の製造・使用時の資源消費量の削減に加え、電池の総寿命の延長により、循環型経済という考え方を模範としている。なお、残存価値の上昇とは、将来的に電気自動車用電池が再使用可能となることである。例えば、効率的な電気的駆動に必要な最小値に満たないほど容量が少なくなってしまった系統連系ア プリケーションや太陽電池などがそれに当たる。

詳細についてはこちらを参照:http://www.batteries2020.eu/   https://www.leclanche.com/

©Bloom Biorenewables     https://bloombiorenewables.com/ 
©Bloom Biorenewables     https://bloombiorenewables.com/

32 ブルームバイオリニューアブルズ(Bloom Biorenewables) 社:バイオマスから得たバイオ燃料(化学業界)

ブルームバイオリニューアブルズ社(以下、ブルーム社)のミッションは、直線型で化石燃料ベースの資源から循環型で植物由来の代替資源への移行を推進するソリューションの提供である。スイス連邦工科大学ロー ザンヌ(École Polytechnique Fédérale de Lausanne, EPFL)のスピンオフとして2019年に設立されたブル ーム社は、木材や農業廃棄物といった広く入手できる全てのバイオマスの価値を維持するための技術を開発した。これにより、ファインケミカルやバルクケミカル、ポリエステルや複合材料、繊維、燃料、燃料添加物 といった構成材の持続可能かつコスト競争力のある生産が可能となる。大量生産により、同社は、自社が持つ技術のリスクを下げ、現在、化石燃料に大きく依存している業界にまで石油類似製品を拡大することを目指している。こういった業界の例としては、これまで実現可能なバイオベースの代替燃料がなかったプラス チック、化粧品、貨物輸送、医薬品といった業界がある。ブルーム社のバイオベースの重質燃料は、さらに海運業や航空機産業といった燃料集約型産業の脱炭素化に役立つ可能性がある。数々の賞を獲得している同社は、多数の団体および研究機関から支援を受けており、最近では日本の横河電機株式会社と国際的な業務提携を結んでいる。 革新的な技術を通じて、ブルーム社では、廃棄物から価値を創出している。その方法には、バイオマスの価値を維持し石油由来製品のバイオベースの代替燃料とする、環境に責任を持つ生産への寄与、再生不可能資源の消費の削減、循環型経済アプローチに沿ったクリーンエネルギー源の提供などがある。

詳細についてはこちらを参照:https://bloombiorenewables.com/

©Clariant
©Clariant

33 クラリアント(Clariant)社:米生産廃棄物から作った持続可能 なプラスチック潤滑油(化学業界)

スイスのスペシャリティ・ケミカル企業であるクラリアント社は、米ぬか油の生産過程で生じる廃棄物からバイオベースのワックスソリューションを開発した。Licocare® RBW Vita は、未精製の米ぬかワックスから取れる幅広い革新的なワックス添加剤であり、米ぬか油の生産過程で得られる、食用部以外の副産物である。 クラリアント社では、この原料を化学的・物理的に精製し、さまざまなプラスチックを対象とした高性能のワックスを作った。代表的な適用分野には、エンジニアリングサーモプラスチック、バイオポリマー、エポキシ樹脂などがある。ポリマーメルトの流れを改善し、成形品を取り出しやすくすることにより、処理量が多くなり、さらに複雑な設計の可能性が広がり、表面もさらに滑らかになるワックス製品となった。こういったことは特に、自動車産業、電気工業、電子工業などで求められている。それら以外でも、コーティング、農業、消費者向け アプリケーションなどで本製品は利用されている。

同社の Licocare® RBW Vita 製品は、環境へ再導入する際にも安全であり、循環型経済においてはさらに効率的でエネルギー節約型の生産やプラスチックの再生利用の一助となる。さらに、これらの製品 は、循環型経済の厳格な原則の要件を満たしている。つまり直線型の材料の流れを循環型の材料の流れと変えていく、「ゆりかごからゆりかごへ」アプローチである。ライフサイクルに沿って製品を改良し変えていくことにより、クラリアント社では、長期にわたって関係のある全ての材料が持つ価値を維持し、再生可能資源として米の全ての成分を十分活用している。こういったことから、同社は、化学業界における循環型経済の指針を示していると言える[6]

その優れた性能に対し、Licocare RBW 製品群には、卓越した持続可能性を示すためにクラリアント社が定めたEcoTain®ラベルが与えられている。

 

詳細についてはこちらを参照: https://www.clariant.com/en/Business-Units/Additives/Waxes/Licocare-RBW

[6] 参照: https://www.chemicalmarket.net/Articles/Detail/Clariants_Licocare%C2%AE_RBW_Vita_bio-based_additives_for_plastics_receives_award_for_sustainability_excellence

©Climeworks
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34 クライムワークス(Climeworks)社:直接空気回収技術(DAC) (クリーンテック)

クライムワークス社では、安全かつ永続的な方法で大気中から二酸化炭素(CO2)を除去することにより、 全ての人々に「クライメートポジティブ(climate positive)」の権利を与えている。同社は、スイス連邦工科大学チューリヒ(Swiss Federal Institute of Technology, ETH)からスピンオフし2009年に設立されたが、 その10年後には世界有数の直接空気回収(ダイレクト・エア・キャプチャー、DAC )技術を有する企業となった。同社が有する CO2の回収と貯蔵のための最新施設(現在建設中)は、既存の世界最大級のク ライメートポジティブ施設であり、年間4000トンのCO2を取り込むことができる。

そのモジュラーコレクターは、高度選択的なフィルター材の表面でCO2を取り込むことにより機能する。 フィルターが一杯になれば、コレクターは閉まる。温度を約100°Cにまで上げた後に、CO2が回収可能、高純度・高濃度の形で放出される。その後、この生成物は、例えば飲料の炭酸化や再生可能な合成燃料の生産など、原料として使用できるようになる。このような燃料は従来の燃料にそのまま取って代わるものであるため、モビリティセクターをカーボンニュートラル(炭素中立)へと変えていく上で非常に重要となる。クライムワークス社では、企業や個人に対するサービスとして大気中からのCO2の永久除去を提案することにより、特に炭素除去に注力している。この場合、大気中から取り込んだCO2は、カーブフィックス(Carbfix)社が提供する急速地下鉱化プロセスを通じて地下に貯蔵され、数年のうちに硬い岩に変化する。CO2を貯蔵すれば、大気中からCO2が永久除去される。つまり、大気中のCO2の適切なバランスを取り戻す助けとなり、気候変動の抑制につながるのである。クライムワークス社の直接空気回収機は、再生可能エネルギーや廃棄物発電だけから動力を供給している。グレイエミッションは10%未満である。つまり大気中から取り込 んだ100トンのCO2のうち90トン以上が永久除去されるということになる。

測定・計測可能な方法で気候変動と闘う力に加え、同社の技術が他に類を見ないものである理由は、いずれの二酸化炭素除去方法でも必要最小限の土地と水を使うだけであること、また気候変動を軽減しつつ主な温室効果ガスの1つから価値を創出することにある。 

詳細についてはこちらを参照: https://climeworks.com/

©DePoly SA    https://www.depoly.ch/  
©DePoly SA    https://www.depoly.ch/

35 ドポリー(DePoly)社:PET プラスチックの再生利用ループを閉じる(化学業界)

循環型経済における最終段階の1つは再生利用である。ここではPETプラスチックボトルのような製品を材料成分にまで分解し、新たな別の製品にする。現在行われているPETプラスチックの再生利用法が抱える主な課題は、PETプラスチックが汚れていたり、色が混ざっていたり、例えば繊維や織物などに既に加工されたりしている場合には、効果的・効率的な PETプラスチックの再生利用ができなくなることである。ドポリー社が提供する革新的な低コスト・低エネルギー工程では、混色の多層ポリエステル繊維を含む、価値の低い使用済みのPETプラスチック廃棄物から、テレフタル酸(TPA)とモノエチレングリコール(MEG)を生成する。この場合、同社では熱や圧力をさらに加えることはなく、その技術で利用するのは持続可能で環境に優しい化学製品だけである。この工程が他に類を見ないものである理由は、ポリプロピレンといった他のプラスチックの存在下でもPETプラスチックの選択的処理ができることにある。その結果、売り戻しという形で100%リサイクルPET樹脂が産業界に渡り、産業界では石油が必要となることもなく未使用の新しいPETプラスチックを製造できるため、市場でもTPAやMEGの持続可能な供給源が得られる。再生プラスチック 1トン当たりにつき、削減できる温室効果ガスの排出量は、石油18バレルを燃焼させた際に生じる量に等 しい。

ドポリー社では、その革新的技術を通じ、再生利用工程をさらにエネルギー節約型にし、さまざまな混合プラスチック製品に広く応用できるよう工夫するばかりでなく、産業界それ自体が出す廃棄物、すなわち環境を汚染している何百万トンというプラスチックを資源として産業界が利用できるようにしている。これは石油ベースの製品への依存度を下げることにつながり、最終的にはPET製品の材料ループを閉じることにも 役立つ。 

詳細についてはこちらを参照:https://www.depoly.ch/

©Embion
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36 エムビオン(Embion)社:産業用バイオマスのアップサイクリン グにより多様な用途を持つ生物活性化合物を生成(バイオテク ノロジー業界)

食品廃棄物と世界人口の増加に伴い、食品栄養業界では、1世紀の間、産業用リグノセルロース系バイオマスから価値を創出しようとしてきた。それに加え、世界の生物活性原料市場は、長期にわたる開発、常に安定した結果が得られないこと、隠れた運用コストといった問題に直面している。スイス連邦工科大学ロー ザンヌのイノベーションパーク (EPFL Innovation Park)から生まれたエムビオン社は、このような問題に対するソリューションを提供している。同社では、革新的な触媒技術を通じて、ヒトや動物の栄養補給用として産業用バイオマス廃棄物から生物学的に利用可能なオリゴマーを抽出している。特許を取得した同社の触媒は、その後の再利用で用いる場合に完全に回収可能である。その方法も簡単であり、費用効果も高く、すぐに実行できることに加え、結果として得られる可溶性の生物活性化合物の機能性も高い。さらにエムビオン社では、畜産業の成長促進を目的として、食物繊維・プレバイオティクス、香味料・色素、植物由来の生物活性物質といった分野において、特定の抽出産物の試作工程の迅速化という点で産業界に革新をもたらすことのできる技術プラットフォームを提供している。エムビオン社はこのほど、日本のアサヒグループホールディングス株式会社およびその子会社である研究開発企業と提携した。その目的は、アサヒグループで得ら れた副産物を醸造し新製品を作り出すことにあった。

以上を通じて、エムビオン社は、循環型経済の生物学的循環で生じる産業用バイオマスの創造的再利用(アップサイクリング)を促進するだけでなく、研究開発チームを通じて栄養学の分野で破壊的イノ ベーションを創出している。その基本的な目標は、今後の需要の伸びを考慮した生物活性原料の抽出に関する知識の強化と向上である。

詳細についてはこちらを参照: https://embiontech.com/

©FluidSolids       https://www.fluidsolids.com/en/homepage/
©FluidSolids https://www.fluidsolids.com/en/homepage/

37  フルイドソリッズ(FluidSolids)社:有機廃棄物から得た堆肥化可能なバイオコンポジット(化学業界)

フルイドソリッズ社は、生物学的廃棄物や残留物から生分解性のバイオコンポジットを生成するスイスのテク ノロジー企業である。例えば、堅果の殻、木部繊維、トウモロコシの穂軸、ボール紙、麻繊維や紙などといった、食品業界、家具業界、ファッション業界から発生した廃棄物で別の方法では再生利用できないものは、フルイドソリッズのバイオ複合材料に変えられる。これは、従来は石油ベースのプラスチックやバイオプラス チックから製造されていた数え切れないほどの製品に対する、費用効果の高い代替品となるもので、一般家庭でも堆肥化可能である。繊維含有量が多いため、材料の曲げ強度が高くなるとともに、構成材の壁の厚さや重量を高度に最適化でき、効率的に作ることができる。さらに、バイオ複合材料は、既存の機械類を用いた工業用の大量生産工程に適している。また、フルイドソリッズの技術は、既存の製造工程と統合できるプラットフォームを提供している。これにより取引先の現場にある特定のニーズに合わせた生産が可能となり、その結果、考案者が意図した通りの外観と雰囲気を持つ製品が出来上がるのである。

同社でなされている開発においては、当初から、廃棄物を資源として利用するという循環型経済の考え方が中心となっている。フルイドソリッズの技術により、ある企業自体が出した廃棄物の流れが、バイオ 複合材料の生成供給源として利用できるようになった。また、バイオ複合材料の生成を現場で行えるため、 輸送、廃棄物処理、エネルギー、調達にかかる費用がさらに削減できる。つまり、どんな企業であっても全体的な環境バランスを向上できることになり、結果的に、生産、処理、再生利用、廃棄の過程で生じる環境への影響が減ることになる。

詳細についてはこちらを参照: https://www.fluidsolids.com/en/homepage/

©SmartHelio Sarl
©SmartHelio Sarl

38  スマートへリオ(SmartHelio)社:太陽光発電所の診断のための AI ベースの高度分析(IT 業界)

特に新興市場においては、再生可能エネルギー源として太陽光発電産業に非常に大きな成長可能性があるとされているにもかかわらず、太陽光発電所の整備、診断や根本原因の分析については、その多くが手作業かつ受け身的に行われている上、現在のモニタリングソリューションでは、データ取得と可視化が提供されているに過ぎない。スイスの企業であるスマートへリオ社は、現在ある/将来生じる太陽エネルギー利用の利点を維持するためにスマートな方法を開発した。具体的には、人の介入が限られていても、シェーディング、 コネクタ不良、ワイヤの錆といった不具合を自動的に診断してその場所を突き止め、システムの動きを予測するために過去と現在のデータを分析し、最大の成果を得るために実行可能な手順を定めるAIベースのクラウドプラットフォームである。この結果、発電量が最大で20%向上することになる。自動化されたレポートとビジネス上の高度な知見が得られるため、生産性と収益を上げる上でさらに役立つ。スマートへリオの技術は、屋根に設置するものから実用規模のものまで、あらゆる規模の太陽光発電所に応用できる。またクラウ ドソリューションは、サードパーティのモニタリングシステムとシームレスに接続できる。スマートへリオ社は、スイス連邦工科大学ローザンヌ(École Polytechnique Fédérale de Lausanne, EPFL)ルツェルン大学 (University of Lucerne)と有益な研究開発提携を結んでおり、スイス、インド、米国には既に多数の国際的な取引先がある。

同社のソリューションは、循環型経済の前提条件であるクリーンエネルギーの生成と効率的な管理ばかりでなく、知見を提供し、再生可能エネルギーシステムを全体的に改善できるようなデジタル・オンライン・プラットフォームや技術を通じてさらにデジタル技術を取り入れ、資源の利用を追跡・最適化している。

詳細についてはこちらを参照: https://www.smarthelio.com/

4 なぜスイスなのか? スイスが持つCEへの投資の優位性

この章では、CEに関してスイスが持つ特定の地域的状況と優位性を明らかにし、「なぜスイスなのか?」という疑問に焦点を当てる。この内容は、環境関連の投資と海外との協力の機会を探し求めている日本企業 が、CEの投資先としてスイスを検討する上で選択の論拠として役立ててほしい。

 

1. スイスはイノベーションの世界的リーダーであり、CEへの移行にはイノベーションが必要である。

サプライチェーンにおける循環性の向上のためには、第4次産業革命による破壊的技術が重要な梃子となる。例えば、人工知能と「モノのインターネット(Internet of Things)」の助けを借りて、社会的・環境的利益を最大とすることを目的として資源、材料、製品を使用するため、資源や材料の流れを記録・追跡し、考慮し、 透明化することができるようになる。同様に、いろいろな形態の移動性にみられる流れ、すなわち複数の輸 送手段の連携を促すことができる。3D プリンティングとロボット工学により、材料の選別と再生利用のための新たな機会が生まれ、例えば「サービスとしての製品」に基づくビジネスモデルにおいて再製造スキームを効果的に統合することで、新たなビジネスモデルとすることが可能となった。さらに、スマートグリッドにより、持続可能エネルギーを効率的に供給できる[7] 。そう考えると、スイスが特にこういった分野で高度な専門知識を発揮できるのは幸運である。スイスには、AI分野では世界的に有名な大学や研究機関があり、ロボット工学やドローンの分野では世界をリードする国と位置付けられている。これが、スイスが往々にして「ロボット工学の シリコンバレー」と呼ばれるゆえんである[8]

 

2. スイスは廃棄物処理と再生利用という点では先頭を行く国である。

スイスでは高度な技術プロセス、精巧な資金調達メカニズム、そして、意識高く行動する国民によって、ガラス、金属、PET ボトル、化学製品などの資源が有効に再利用され、可能な限り価値の損失を抑える枠組みが成立している。ガラスで94%、ブリキ 缶で92%、スチールで86%、PETボトルで83%、バッテリーで67%と、世界最高の水準にある。それと同時に、年間で約122,800トンの家電製品と約53,690トンの織物・靴が、再使用・再生利用される[9]。2019年には、全体として、家庭や小企業から出た廃棄物の53%が再生利用されている[10]。また、不断の研究開発により、さらに多くの材料がますます効率的な方法で確実に再生利用できるようになる。例えば、廃棄物発電所の燃焼排ガス処理の残留物から生じた特別な良質の亜鉛[11]、廃水、下水汚泥、灰から生じたリン[12]の再生利用のための技術については、目下構築中である。したがって、日本企業は、廃棄物処理や再生利用に関してスイスが有する専門的知識から多くの利益が得られるとともに、スイスが享受する高い信望から生じるプラスの波及効果とブランディング効果も期待できる(論点6も参照のこと)。しかしながら、一人当たりの廃棄物の量と環境フットプリントに関して言うと、スイスは必ずしもトップランナーではない。この矛盾した状況は、循環型経済アプローチの中で再生利用が持つ本来の重要性を実証している。それと同時に、発生源の時点で廃棄物を防ぐためにCEに関する幅広い理解を得ることの必要性を確認するものとなっている。

 

3. スイスには潤沢な資金提供プログラムの支援による豊かなCEエコシステムがある。

スイスには、安定したエコシステムとCEを巡って絶えず変化し続ける起業文化があり、循環型製品やサービスイノベーションに関心のある企業にとっては肥沃で活発な環境となる。スイスは、ステークホルダー間の距離が近く、かつ密接につながっている国である。このことはCEソリューションの試験や試作に好都合であり、他国での追実験、再現が可能である。

 

3.1 スイスのCEの原動力
Impact Hub Switzerlandthe arkといった企業支援施設では、特にCEに合わせた支援プログ ラムに加え、エネルギー・環境関連の新規事業の立ち上げや研究プロジェクトを提供している[13]。協調と交流のプラットフォームであるCircular Economy Switzerlandでは、さまざまなプロジェクトやイベントを行うこと で、スイス全土で新たな循環型経済への移行を促す役割を果たしている。さらに、新設企業だけでなく既に ある企業に対しても CE の先駆的企業や優良事例に対する認知度を高めている[14]。同様に、World Resources Forum[15]SHIFT Switzerland[16]Circular Innovation Ecosystems[17]circular economy entrepreneurs[18]といった、一連のネットワーキングイベントやプラットフォームでは、CE の関係者間の交流を 促し、仲間同士の学びが得られることを目標としている。MAVA Foundation は、こういったCEの取り組 みの多くで原動力として名声を得ており、そのCE行動計画に対し、年間1,250,000スイスフランの予算を 割り当てている[19]。 CEや持続可能性に関する産業界のネットワークと団体は、CEをさらに政治課題へと押し進め、協働的かつ部門横断的なやり方でCEソリューションを構築している。その例として、swisscleantech[20]öbu[21]CleantechAlps[22]Swiss Sustainable Finance[23]PRISMA[24]Drehscheibe Kreis laufwirtschaft[25]などがある。

 

3.2 スイスにおけるCEに関する研究開発の促進
CE、持続可能性、再生可能エネルギーといったテーマに関する優れた研究プログラムは、CEイノベーションのための道を開くことに加え、スピンオフが成功につながることも多い。2013~2020年までに、1,300人を超える研究者が、エネルギー移行のためのソリューションの構築と実施を目的として、8つのSwiss Competence Centers for Energy Research(SCCER)で稼働していた。その支援額は194.5 スイスフランに のぼるが、特筆すべき成果は41のスピンオフである。官民にわたる実施パートナーを統合したことが、決定的な成功要因であったことが明らかとなった[26]。今後数十年間は、資金提供プログラムである SWEET (SWiss Energy research for the Energy Transition)により、スイスで行われるエネルギー移行に関する研究が確実かつ順調に継続されることになる[27]。さらに、2,000万スイスフランを資金源とするNational Research Program NRP 73では、特にテーマをCE に絞り、スイスにおける資源の利用と資源への依存に関して既存の知識を広げていくことに注力している[28]

複数の資金提供プログラムにより知識の移転とイノベーションが可能となったが、その目的は、次に挙げる研究パートナーや産業パートナーを団結させることにあった:循環型経済を利用したInnosuisse NTN Innovation Booster[29]、スイス連邦エネルギー庁(Swiss Federal Office of Energy(SFOE)によるPilot and Demonstration program[30]、スイス連邦環境庁(Swiss Federal Office of the Environment )によるenvironmental technology promotion[31]。一般に、企業はスイスの公的資金から間接的にしか利益を得られない。その理由は、それが主に研究機関に向けたものであるためであり、産業パートナーは資金提供の分担分を提供しなければならない立場にあるからである。加えて、地域原則が適用される。つま り、産業パートナーはスイス国内に登記上の事務所があることを証明しなければならず、プロジェクト作業は 主にスイス国内で行われなければならないのである。唯一の例外として、海外のパートナーや国際的なプロジ ェクトコンソーシアムについては資金援助が受けられる。日本の場合、これに該当するのは、Strategic Japanese-Swiss Science and Technology Programme(SJSSTP)[32]や、スイス連邦工科大学チューリヒ (ETH Zurich)によるCall for Innovation Partnership Grants with China, Japan, South Korea and the ASEAN region[33]といったプログラムである。こういったプログラムでは、日本の研究者や企業でも資金提供が利用可能となっている。これは日本とスイスとの間にある確固たる共同研究の伝統の重要性を示すものである。これらはいずれのプログラムでも研究分野は問わないものとされており、テーマがCEや持続可能性に限られているわけではない。

                

4. スイスの金融部門は新興の、かつ重要度を増しつつあるCE移行の成功要因である。

金融業界は、スイスで最も傑出した産業のうちの1つであり、革新的な財務ソリューションのためにCEが必要とされている。 ここ数年の間に、CEに関連した金融サービスの提案の数は急激に増加している。スイスの金融機関が発行 した17の上場株式資金のうち、4つがCEに焦点を当てたものであった[34]。その1つである DECALIAでは、CEを推進する日本企業に対し相当な数の投資を行っている[35]。しかしながら、スイス国内外でこういった資金提供機会を拡大していくためには、CEに関する活動に伴うリスクの認識や評価に関する課題を引き続き克服していく必要がある[36]

 

5. CEに関してスイスに投資を行った日本企業に対して、スイスが行っている環境保護に対する高い評価が波及する可能性がある。

スイスには、優れた品質と環境保護に対する高い基準があることに加え、スイス企業は持続可能性に関する課題に取り組み、資源効率を上げるために幅広い努力をしていることでも知られている[37]。このことは、スイスが、Environmental Performance Index (EPI) 2020[38]で3位、Global Cleantech Innovation Index 2017[39]で10位となった事実からも明らかである。また、スイスは、遡ること1983年に欧州諸国で最初に環境保護法を制定した国であり、再生可能エネルギーと資源効率技術につ いては先駆的な役割を果たしたことで知られている[40]。スイスに投資する日本企業には、環境保護に対する高い評価をさらに高められるという利益がある。というのは、スイスが行っている環境保護に対しては非常に高い評価が得られているため、企業や製品にもその評価が波及するからである。

 

6. スイスには産業政策がないため、外国企業に同じ土俵が提供できる。

他国とは異なり、スイスには産業に関わる政策がない。特定の(グリーン)産業に対する財政貢献という形での直接的なインセンティブはない。例えばEUにはCOVID-19危機後の意欲的な回復プログラムとなる、新たなEuropean Industrial Strategyがあるが、その目的は莫大な資金をグリーン部門/企業/プロジェクトに向けることにある[41]。あるいは中国では、第13次五カ年計画(thirteenth Five Year Plan)の下、クリーンテック企業が莫大な資金援助を受けている[42]。しかしながら、産業に関わる政策の意図は、外国企業に対する寄与にあるのではなく、自国の産業が持つ競合性の強化と、外国産業による費用負担に基づく外国企業への依存度の低下にある。例えば、EUの計画した炭素国境調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism) は、EU諸国への輸出を望むのであれば、炭素排出量を減らさなければならないという圧力を外国企業に対してかけるものとなる[43]。産業政策を持たないことにより、スイスでは外国企業がそのような不利な立場に置かれることはない。

 

7. 現在策定中となっているスイスにおける CE に関する法的枠組みは、立法過程を具現化する可能性がある。

確固たる環境・気候政策はCEイノベーションを可能にし、CE に基づく製品やサービスにとっては競争優位性が生じる。スイスにおける循環型経済と持続可能性に関する立法基準は EU 諸国ほど高くはない が、スイスもそれに近づいてきている(第2章を参照)。そういった意味では、現在の法的状況には、EU 諸国と比べると利点と同時に不利な点がある。つまり一方では、CEに基づく製品やサービスに対し、現在、 スイスよりもEU諸国の方が強い追い風が吹いている。それは、環境に配慮した製品設計に対してEU Ecodesign Directiveといった規定があることによる[44]。他方では、スイスで CEに投資する企業は、政治に関する論議に加え、近々行われる法改正やEUが定めた法律のスイスへの適合化に対して、引き続き影 響力を行使することができる。スイスでは、利益団体は簡単に注目を集めることができる。諮問手続き、組織化されたロビー活動プロセスにおいて、各企業は、その意見を求められる。地位を確保したり立法過程を具現化したりする自由は十分にある。

 

8. スイスの人材は有意義な仕事を求め、CEは確固とした目的意識を創造する。

スイスには優れた教育 制度があることがよく知られており、世界中の人材を惹きつけている。それと同時に、若者は「目的意識の世代」の一端を担いたいとされ、目的意識の持てる仕事を求め、持続可能性への意欲を欠く企業に勤めることはしない[45]。スイスでは、明確な環境意識を持つ人々の割合が特に高い[46]。したがって、CEへの意欲を持つ外国企業にとっては、有能で熱心な労働力を獲得できるスイスの人材採用事情は特に魅力的となる。

 

9. 日本とスイスとの類似点が協働の推進に役立つ。

日本とスイスは几帳面さ、時間に正確、信頼関係を重視、さらには優れた品質に対する高い意欲といったよく似た価値観を持つ。また、日本とスイスはいずれ も天然資源に乏しく、国土も狭い。こういった不可避な決められた条件下で、経済発展に向けて、長い間、 資源の有効利用が奨励され、国民が持つ知的能力に依存してきた。さらに、日本とスイスはCircularity Gap Report 2020で非常に似通った位置を占めている。この報告書は循環型経済の達成までのギャップを国別に評価するものである。日本とスイスは、人材開発指標(Human Development Index)では同様に高いスコアとなり、エコロジカル・フットプリントは、ほぼ同じ規模(大きい/持続不可能)と評価された。したがって、両国にある循環性のギャップは、やや中程度から大の範囲にあると判定されることとなった[47]。日本とスイスは、持続可能な開発という点で同様の課題に直面しており、同じ水準に達していることから、日本企業が特にスイスとの協調を検討することは理にかなっている。

 

 

 

[7] Cleantech Alps (2020): The circular economy: An economic and environmental opportunity for Switzerland? https://www.cleantech-alps.com/de/etudes/details/the-circular-economy-an-economic-and-environmental-opportunity-for-switzerland-0-1932, p. 46.
[8] See e.g. Andrew Cave (2017): How Switzerland became the Silicon Valley of robotics. Forbes, September 26, 2017, https://www.roboticstomorrow.com/story/2017/09/how-switzerland-became-t…; and PAC blog (2018): How Switzerland is becoming a hub for artificial intelligence, July 13, 2018, https://www.sitsi.com/wie-sich-die-schweiz-zu-einem-zentrum-f-r-k-nstli….
[9] https://www.eda.admin.ch/aboutswitzerland/en/home/umwelt/natur/recyclin…
[10] https://www.bafu.admin.ch/bafu/en/home/topics/waste/state/data.html
[11] https://swisszinc.ch/index.html
[12] https://www.bafu.admin.ch/bafu/de/home/themen/abfall/dossiers/phosphor-…
[13] https://www.cetransition.ch/en/home   https://www.theark.ch/en/page/energy-a-major-area-for-economic-development-in-the-valais-1738
[14] https://circular-economy-switzerland.ch/?lang=en
[15] https://www.wrforum.org/
[16] https://shiftswitzerland.ch/en/
[17] https://www.sanudurabilitas.ch/fr/projets/circular-innovation-ecosystem…
[18] https://www.ce2.ch/
[19] https://mava-foundation.org/oaps/advancing-a-resource-efficient-and-cir…
[20] https://www.swisscleantech.ch/
[21] https://www.oebu.ch/de/home-5.html
[22] https://www.cleantech-alps.com/en//
[23] https://www.sustainablefinance.ch/
[24] https://www.prisma-innovation.ch/
[25] https://www.circular-economy.swiss/
[26] https://www.innosuisse.ch/inno/en/home/about-us/newsroom/nsb-news_list…
[27]https://www.bfe.admin.ch/bfe/en/home/research-and-cleantech/funding-pro…
[28] http://www.nfp73.ch/en/the-nrp
[29] https://innobooster.org/servlet/hype/IMT?documentTableId=65573388810901… 
[30] https://www.bfe.admin.ch/bfe/en/home/research-and-cleantech/pilot-and-d…
[31] https://www.bafu.admin.ch/bafu/en/home/topics/education/innovation/umwe…
[32] http://www.snf.ch/en/funding/programmes/bilateral-programmes/japan/Page…
[33] https://ethz.ch/en/the-eth-zurich/global/global-research-platforms/swis…
[34] ELLEN MACARTHUR FOUNDATION (2020): Financing the circular economy: Captirung the opportunity.  https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/Financing-the-circular-economy.pdf, p. 33. The four Swiss CE funds are issued by Credit Suisse, DECALIA and RobecoSAM.
[35] https://www.decaliagroup.com/wp/wp-content/uploads/2018/06/2018.06.26-C…
[36] PwC, WWF (2021): Circularity as the new normal. https://www.pwc.ch/en/insights/sustainability/circular-economy.html, p. 28.
[37] Federal Council (2018): Environment Switzerland 2018. https://www.bafu.admin.ch/bafu/en/home/state/publications-on-the-state-of-the-environment/environment-switzerland-2018.html, p. 9.
[38] https://epi.yale.edu/downloads/epi2020report20210112.pdf, p. 3.
[39] Cleantech Group, WWF (2017): The Global Cleantech Innovation Index 2017. http://info.cleantech.com/WWF-Index-2017_WWF-Index-2017-Submit.html, p. 13.
[40] Swiss Confederation: Swiss Cleantech Report, 3rd edition. https://swisscleantechreport.ch/order-your-copy-3rd-edition/, p. 11.
[41] https://www.consilium.europa.eu/en/policies/eu-industrial-policy/  https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/europe-fit-digi…
[42] PwC (2017): Chines Cleantech Market Opportunities. https://www.pwccn.com/en/energy-utilities-mining/chinese-cleantech-market-opportunities-2017.pdf, p. 2.
[43] https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiativ…
[44] https://www.bmwi.de/Redaktion/EN/Artikel/Energy/energy-efficiency-label…
[45] https://www.forbes.com/sites/afdhelaziz/2020/03/07/the-power-of-purpose…
[46] Franzen (2003): Environmental Attitudes in International Comparison: An Analysis of the ISSP Surveys 1993 and 2000. https://doi.org/10.1111/1540-6237.8402005
[47] Circle Economy (2021): Circularity Gap Report 2021. https://www.circularity-gap.world/2021#downloads

水力発電に関する傍注

スイスの発電量の約56%を大規模/小規模な水力発電所が担っており、再生可能エネルギーによる発電 量の96%を占めている[48]。したがって、水力発電に関する研究、開発、産業は、明らかにスイスが有するコ ア・コンピテンシー(中核的能力)の1つである。スイスにおける水力発電が持つ可能性が大規模に活用されてきたことから、その専門的知識や技術を輸出したいという強い意向もある。

以下の報告書は、スイスにおける小規模な水力発電の関係者に関する概要を提供するものであり、水力発電のバリューチェーンに沿って、スイスが持つ強みと能力に加え、さまざまな関係者を紹介している:https://issuu.com/cimark/docs/etude_pch_en_web/37, 特に p. 23 を参照のこと。

スイス連邦エネルギー庁(Swiss Federal Office of Energy(SFOE))では、今後数年間の水力発電分野における研究優先事項を概説している。おそらく日本でもエネルギー移行と気候変動に関して同様の課題に直面していると思われることから、相乗効果と研究協力を模索する上でこれが出発点となるだ ろう:https://www.bfe.admin.ch/bfe/en/home/research-and-cleantech/research-programmes/hydropower.html

 

[48] https://www.swv.ch/fachinformationen/wasserkraft-schweiz/

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