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日本企業との連携を望むライフサイエンス系スタートアップ

スイスは国家戦略として世界先端をいく革新的技術の開発を推進しており、高度な技術やアイデアを有する企業が数々誕生しております。今回はQUMEAMuvon Therapeuticsをご紹介いたします。

病室の天井に設置されたセンサーで、部屋の大きさに関係なく室内4名まで利用可能。各々の患者の状況をスマホ専用アプリでモニタリングする。©QUMEA
病室の天井に設置されたセンサーで、部屋の大きさに関係なく室内4名まで利用可能。各々の患者の状況をスマホ専用アプリでモニタリングする。©QUMEA

QUMEA  
独自の高性能三次元レーダー技術を応用し、病院や介護施設の非接触見守りシステムを開発

2019年に実績のあるエンジニア数名がスイス・ゾロトゥルン州で起業。病室内で患者さんの動きを一秒毎に1億におよぶモーションポイントで分析。独自のAIアルゴリズムを駆使して、リアルタイムで病状や転倒を早期検知する非接触見守りシステムを開発。

レーダーからの情報はカメラなどの画像と違い患者さんを限定しないので、プライバシー侵害の心配は少ない。またQUMEAのレーダーシグナルは通常のWiFiルーターやスマホからのシグナルの100分の1なので人体への影響は限定的。モーションポイントは一秒間に0.1ミリメートルの微妙な変動も見逃さず、マクロとミクロの情報を伝達。マクロの情報とは患者さんの体の動きや姿勢の変化を、ミクロの情報は呼吸数、心拍数、消化機能など体内の動きなど検知。蓄積されているビッグデータの統計分析により、個々の患者さんの体調を予知できる。

また病室の二酸化炭素、TVOC(総揮発性有機化合物量)や温度測定もされ、室内の換気状況を検知し助言する機能も搭載。センサーは病室の天井に設置され、部屋の大きさに関係なく室内4名まで利用できる。各々の患者さんの状況をスマホ専用アプリでモニタリングし、異常とみられる兆候をリアルタイムで見える化。ベッドから落ちそうな前兆など予知できる。またナースコールとも接続されている。

必要に応じて的確な処置をとれるので、看護師や介護担当者の時間を有効に活用できるツールとして需要拡大が見込まれる。現在すでに欧州の複数の病院と契約し市場を開拓中。創立者の一人であるDavid Meier氏は、高齢化や介護人材不足の解決に取り組んでいる日本企業との事業連携を希望している。
 

Muvon Therapeutics
自家細胞再生医療による骨格筋幹細胞移植。最初の応用はSUI(腹圧性尿失禁症)

チューリヒ大学病院泌尿器科にある幹細胞治療・組織工学研究所のDr. Deana Mohr-Haralampievaの率いるチームによるスピンオフ企業。12年以上に及ぶ基礎研究の結果を臨床に応用し、治療技術の事業化を目的に2020年に設立された。

まずはSUI(腹圧性尿失禁症)の革新的治療法の事業化を目指す。患者数は世界中で2億人以上と言われ、女性は男性の2倍以上。既存の治療法は一時的に症状を緩和できても、持続的効果を見込める治療としては程遠いのがほとんど。Muvon社の骨格筋幹細胞移植は低侵襲治療でリスクが低いため注目されている。 

損傷した括約筋の再生には:
1.  患者さんの脚から筋肉組織を採取
2.  MPC(筋形成前駆細胞)を摘出し、GMP準拠のクリーンルームで3 - 4週間の間、約8千万くらいの細胞数まで培養
3.  培養細胞を再生患部に注入
4.  6週間ほどの磁気刺激で筋肉の活性化を促進

2020年1月よりチューリヒ大学病院で第一相治験が開始され、2021年中に終了予定。最初の患者さんは同年3月にすでに治療を完了している。第一相治験の準備のため、Dr. Deana Mohr-Haralampieva はチューリヒ大学とEU(欧州連合)加盟国のうち5カ国の大学や研究所との共同研究プロジェクトMUS.I.C (Multisystem Cell Therapy for Improvement of Urinary Continence) を立ち上げ、EUHorizon 2020助成金プログラムに応募し、6百万スイスフラン(約7億円)を獲得した。Horizon 2020は世界最大規模の資金助成制度で、研究やイノベーションを促し産業化へ結びつけることを目的とする。知名度が高く競争の激しい同制度で資金を取得したということは、Muvon社の技術の先端性と治療の重要性が評価された証といえる。

治験の全段階を終了させ、生産工程の自動化の効率性向上、また事業化の促進などのため、現在シリーズAの資金を募っており、調達額はおよそ1500万スイスフラン(約18億円)を目標としている。Muvon社はSUIの他に、骨格筋幹細胞移植を必要とするその他の疾患の治療も計画している。

 

最近開催されたライフサイエンス関連イベント

From Industry to Medical Robotics (6月30日オンライン開催)
産業用ロボティックスと医療用ロボティックスの融合によるイノベーションを目的とするイベント。バーゼル大学のBIROMED Lab bio-inspired robots for medicine laboratory が、今年から国際会議Medical Robotics Weekを主催し、その開催報告も行われた。先端スタートアップAI Endoscopic などが紹介された。

DayOne Experts: Gender Matters: FemTech on the rise(6月5日オンライン開催)
個別化医療の発展により、長い間男性特に欧米の白人が主導してきた医学会において、昨今の社会環境の変化も影響し、研究が遅れている女性特有の疾患や女性による起業促進の動きが顕著となってきている。イベントではバーゼル大学内のFEMtrepreneursイニシアティブ や、ローザンヌのスイス連邦工科大学(EPFL)内に設立されたTech4Evaスタートアップ・アクセラレータープログラムの活動が紹介された。また女性特有の疾患の治療や医療機器を開発するスタートアップ企業のプレゼンテーションも行われた。

 

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平野まり子 
ライフサイエンス業界アナリスト
2004年に米国シリコンバレーに位置するマウンテンビューからバーゼルに転居。バイオテク企業を起業した経験より、革新的技術の事業化を目指すスタートアップ企業の支援に焦点を置く。米国ペッパーダイン大学院技術経営修士

 

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