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常に自らを変革しチャレンジを乗り切ることが伝統、フリッツ・スチューダー社

2018年4月より連載中のスイス最新ビジネス情報をお届けするコンサルタント栗崎由子氏によるコラム。第2回は「常に自らを変革しチャレンジを乗り切ることが伝統、フリッツ・スチューダー社」。家族経営の伝統を持ち、技術革新の波の中で自らを変えながら市場の先頭を走り続けるスチューダー社をご紹介します。栗崎氏独自の取材によりCEOインタビューも実現し、伝統と企業文化を守りながら進化を続けるためのCEOとしての情熱や挑戦が語られています。

スチューダー社 混流生産フローアセンブリー(フリッツ・スチューダー社提供)
スチューダー社 混流生産フローアセンブリー(フリッツ・スチューダー社提供)

 スイスにはもともと家族経営企業として出発し、その優秀な技術と製品で国際競争を勝ち抜いている企業が数多くある。家族経営というと伝統はあっても、内向きな社風を持つこじんまりした会社を想像する。ところがスイスではまさにそのような会社がイノベーションにチャレンジし、国際市場で存在感を示しているのだ。
 家族経営企業の伝統と斬新な発想(イノベーション)とがどう相互に作用し、競争に勝ち抜く企業でいられるのだろうか?そんな問題意識を持って、古城と美しい湖のある街、トゥーン郊外のステフィスブルグにあるフリッツ・スチューダー社(写真1と2、以後スチューダー社、
www.studer.com)に同社のCEO、イェンス・ブレアーさん(写真3)を訪ねた。

スチューダー社について
 同社は精密円筒研削盤の開発と製造の専門企業である。その優秀な技術はスイス時計産業、高級自動車を始め精密技術に厳しい要求を課す顧客から高い評価を得ている。
 スチューダー社の設立は1912年(日本の大正元年)、第一次世界大戦の前である。機械修理を専門にしていたフリッツ・スチューダー氏が、自身の生産する機械部品を研削する必要があったために研削盤を自作したことが起源だ。当時既製品の高精度研削盤は無かった。それが発展して現在のような研削盤専門の会社となった。
 スチューダー社の製品の優れた品質は間もなく世界に知られるところとなった。スチューダー社の製品ほど高度な精度を必要とする用途は限られている。そのような精度を要求する人々は「精密さの追求者(Precision cluster)」と呼ばれ、国を超えて知り合うまでになった。そのような人々に認められ、スチューダー社の製品は第二次大戦前から既にロシアや中国、日本と取引を始めていたほどである。
 スチューダー社は1992年にドイツの会社の傘下に入ったが、今でも家族経営の社風を保持している。

スチューダー社が100年以上続いたのはなぜか?
 家族経営企業として創業者の意志の生きる強い企業文化と、徹底的な精度の追求により唯一無二のレベルにまで達した高品質な製品とが、スチューダー社の世界市場で他に追随を許さない強みとなった。創業社長フリッツ・スチューダーは発明家だった。同時に強い意志とベルン山岳地帯の人に特有の一徹さを持っていた。そのような気性が徹底した高精度な研削盤の開発を支えたといえよう。

家族経営の伝統と革新へのチャレンジ
 八代目の社長であり、現在の社長でもあるブレアーさんは、創業一族の出身ではない。彼は、「経営者にとって家族経営企業とは強い企業文化を持つ企業と言える。スチューダー社の企業文化は優れた技術を持つ自社への強い誇りだ。」と言う。
 以下、ブレアーさんの話を聞こう。
 「強い文化を持つ企業には自己満足に陥るという罠がある。今まで築いた業績に誇りを持つのはよいが、そのあまりに市場や技術の変化に目を閉ざしてはならない。」
 「私はスチューダー社の社長として、社員にはいつも自己の技術や製品に盲目にならないように、外部の変化に注意を向けさせるようにしている。」
 「私は常日頃社員に、自分はわかっている、または当たり前を思っていることに対しても「なぜ?と問いなさい」と言っている。それが自分を向上させる第一歩だからだ。そして自分を向上させない人は、向上を続ける他の人々から取り残されていく。会社も同じだ。」
 「我々の伝統は常に動くことだ。変化とチャレンジがスチューダー社の伝統だ。」
 「私はチャレンジと改革の成果を社員に数字で見せている。結果が目に見えることで人は変化しなければならない理由に納得する。

スチューダー社にとってイノベーションとは何か?
 「我々にとってイノベーションとは、過去の栄光にとらわれず、常に世界に目を向け、何かを変革することを意味する。」
 「スイスの企業として全体収益の95%を輸出から得ている。輸出で稼ぐためには、常に世界の市場や競争相手に目を向けていなければならない。そして我々の競争力を維持するためには、常に自らを変革しなければならない。」 
 「社員にもその危機感を持たせる必要がある。そのために経営者として、社員に常に変革が必要だと厳しく言い続けなければならない。例えば混流生産ライン(写真4)を設置しようとした時こういうことが起きた。スチューダー社の工員は元来職人気質が強かった。自分の顧客のために作った自分の機械という意識で仕事をしていた。そこには利点があるが、反面そのような意識を持ったままでは多種の製品を製造する生産ラインを工場に導入できない。そこで私は社員と話し合い同意を得た。熟練工の持つノウハウを生産ラインに組み込みたかったのだ。」
 「経営者が社員と話し合うというのはいかにもスイスらしい経営のやり方だ。日本やドイツには職務階級意識があるが、スイスでは協調的精神が強い。だから経営者は何かを改革しようと思ったらコンセンサスをとりつけなければならない。」
 「製品のイノベーションを産み出すためにはプロセス(生産過程)、もっというと企業文化に働きかけなければならない。生産プロセスや企業文化は、長期的には製品よりもっと大切だ。だから社長として私は常に企業文化に働きかけ、変革を促している。中国市場を例にとろう。我々は中国の市場規模は急成長すると早くに予想した。そこで中国に拠点を作り、それが現在の中国での売り上げの急成長に繋がった。ドイツのある競争企業は国内市場で大きなシェアを占めていた。ところがそれがあだとなった。その会社は国内市場に安住していたため、中国への進出が遅れ、市場参入に失敗した。その後2008年に起きたリーマンショックの際、スチューダー社には中国市場からの収入があったため、会社全体としては致命的な打撃を受けずに済んだ。」

どのようにして技術革新の先端に伍して行くのか?
 「我々の製品は顧客にとっては長期の投資だ。そのため、我々は先端技術を常にモニターしている。例えば我が社の研削盤にはインダストリー4.0のエッセンスを取り入れている。研削盤にセンサーを取り付け、その発信する温度や振動など、多種にわたる情報をネットワークで送信し機械の作動状況をモニタリングしている。そのようなサービスを開発するとき、若い見習い工は戦力になる。何せ彼らはディジタルネイティブだ、仕事のベテランなら質問しないようなことを聞いてくる。それが他の社員にとって学びになっている。インダストリー4.0については外部の企業と仕事をしているが、この人々はスチューダー社とは全く異質な人々だ。顧客の要請に応えるよう自らを変えて行くためには、こういった異質な人々と共に仕事をしよい結果を出さなければならない。」

将来スチューダー社をどのような会社にしたいか?
 「我々は顧客の満足する高性能で、コストパフォーマンスの良い製品を提供し続けたい。そのためにも、我が社の伝統と変革を支えるスイス精神を維持し続けたい。それは顧客、社員、協力会社の、互いの尊敬に基づいたパートナーシップだ。

 

 スチューダー社は今では家族経営ではなくなったが、家族経営時代に培った企業文化を保持している。それは自社への誇りだ。
 その誇りが変革の動機になるよう社員を引っ張って行くのがスイス企業のリーダーとしての仕事だと、ブレアーさんにお話しを伺って納得した。成功と誇りに安住しないからこそ競争を生き抜き続けるスチューダー社のこのようなありかたは、日本の我々にも学ぶ点があろう。
 また、社員、経営者、顧客や関連企業まで含めて対等な関係のパートナーとして共に仕事をするという点は、いかにもスイスらしい!歴史を通じて王侯貴族に支配されたことのない自由な人々の国の伝統が、企業経営にも脈打っている。
 スイスの人々は勤勉だが、週末はのんびり過ごし夏期やクリスマスには長い休暇を取って休養する。このようなワークライフバランスのとれた生活ができる社会の背景には、人々が対等で互いに尊重し合うことができるという根本精神があるからではないだろうか。

 

 

 

日本発グローバル人材育成、国際交渉コンサルタント、オンラインセミナー地球市民塾主宰 栗崎由子(くりさき よしこ)
日本電信電話(株)(NTT)に勤務後、1989年より渡欧。経済協力開発機構(OECD、パリ)とSITA(本社スイス)にて230余国を相手に国際ビジネスの第一線を経験。2014年よりコンサルタントとして独立。グローバルな視野から多角的にものを見られる、心に壁の無い日本人を一人でも多く育てることがミッション。各種団体で講演、ワークショップ実施、執筆多数。
ウェブサイト: https://jp.geneva-kurisaki.net/事業紹介 コンタクト:  yoshiko.kurisaki@gmail.com

 

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