ニュース

日本企業のオープンイノベーション活動の推進をサポート <イノベーション・アドバイザー 羽山友治氏>

日本企業の協業パートナーとしてのスイスの認知度向上に向けて、2022年7月1日よりスイス・ビジネス・ハブ 投資促進部にイノベーション・アドバイザー羽山友治氏がチームに加わりました。日本人としてスイスの研究機関での経験を持つ羽山氏は、現職において日本の一般消費財メーカーでオープンイノベーションを活かした社内の支援活動に従事しています。羽山氏がスイスへの渡航に至った背景や、実際に経験したスイスの特徴や優位性などを踏まえて、オープンイノベーション活動を推進する日本企業にとってのスイスの位置付けを明らかにします。

羽山氏が説く「日本企業のオープンイノベーション活動課題とスイスの位置づけ」
羽山氏が説く「日本企業のオープンイノベーション活動課題とスイスの位置づけ」

はじめての海外渡航でスイスへ

羽山氏がスイスで研究するきっかけをつくったのは、当時、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に所属していたジェイ・S・シーゲル教授です。「当時の私は、京都大学の薬学部からアメリカの大学院への進学を目指し、複数の教授に個別メールを送っていました。そのなかでシーゲル教授が、スイスのチューリヒ大学に移籍するので一緒に来ないか、と誘ってくださいました(羽山氏)」。

羽山氏のスイスでの研究分野は、新しい分子を合成し、その機能性を探索する「物理有機化学」。電子材料や医療用材料など、ビジネス面で様々な応用の可能性がある分野です。同分野で博士号を取得するまで、2003年8月〜2008年2月のおよそ4年半をスイスで過ごしました。

 

最初の難関は言語

スイスはドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と4つの公用語があります。日本人にとって言葉の壁は高く、留学先の現実的な選択肢にはなりにくいのが実情です。しかも、当時の羽山氏は旅行を含めて海外渡航の経験がなく、スイス留学はかなり思い切った決断だった、と言います。実際、渡航先のチューリヒの現地語はドイツ語で、修士課程の授業もドイツ語で行われていました。もちろんドイツ語は理解できないので苦労することになりますが、大学と交渉した結果、英語の教科書で勉強し、試験はドイツ語の問題に英語で回答する形式を許可してもらうことになりました。

「ドイツ語を習得するため、半年ほど語学学校でハイジャーマン(標準ドイツ語)を学んでいました。しかし、チューリヒではスイスジャーマンが話されています。同じドイツ語であっても街中で現地の人々との意思疎通は容易ではなく、また、英語が広く浸透していることからも、スイスジャーマンではなく英語での生活が主流となりました。今となれば、現地語をもっと勉強しておくべきでした。言葉を学ぼうとする姿勢がある人のほうが、現地に馴染みやすいと思います」と、羽山氏は振り返ります。

 

研究拠点としてのスイス

「とにかくスイスで驚いたのは、大学研究室の資金が豊富であること」と羽山氏。例えば、有機合成に欠かせない「NMR(核磁気共鳴装置)」という機器は、非常に高価なため当時の日本の大学では希少で、測定のために順番待ちすることが普通でした。しかし、スイスでは研究科として複数台保有しており、学生や教員は自由に使うことができました。その後に渡ったアメリカの大学と比べても、スイスの大学ははるかに設備が整っていたように思います(羽山氏)」。

また、羽山氏はスイスの優位性として、文化的な多様性を挙げます。さまざまな人種、民族の研究者がともに研究するのは、スイスの大学の特徴のひとつです。羽山氏の研究室にも、スイス以外にイタリア、アルメニア、アメリカ、カナダ、ブラジル、台湾とさまざまな出身地の研究者が在籍していました。 羽山氏はこのときの体験を、次のように振り返ります。

「(育った地域が違えば)それまで受けてきた教育、持っている常識が一人ひとりまったく異なります。ひとつの常識では解けない問題も、たくさんの常識が集まれば解ける確率が高まります。その経験から、イノベーションには多様性が重要であることを実感しました。スイスでの経験は、個人的にもその後のキャリアに生かされています」。

 

私は10数年間オープンイノベーションに関わってきましたが、その私から見てもスイスは日本企業の協業パートナーとして大きなポテンシャルを持っていると感じています。ぜひご一緒にスイスのシーズを探索してみませんか?

日本企業のオープンイノベーション活動

オープンイノベーション活動は、社内で探索ニーズを集めるところから始まります。その後にシーズを探索することになりますが、規模の大きな企業であればあるほど、まずは社内で探してみることをお勧めします。社外での探索は、何よりもまず国内を優先し、見つからない場合に限って海外に目を向けます。海外と言っても広いため、グローバルで広く浅く、また特定の国や地域で狭く深く探索することを組み合わせるとよいでしょう。特に海外での探索は自社単独では難しいため、民間および公的機関(例えばスイス・ビジネス・ハブ)が提供している仲介サービスの活用が鍵となります。

羽山氏は、自身も事業会社に所属する立場から、日本企業がオープンイノベーション活動の探索フェーズで出会う課題を3つ挙げています。

課題1:シーズを探索する方法がわからない
課題2:競合と差別化された探索ができない
課題3:探索に掛けられる費用が足りない

上記の課題を持つ日本企業に対して羽山氏は、公的機関であるスイス・ビジネス・ハブ 投資促進部を通じたスイスのシーズ探索を推奨しています。スイス・ビジネス・ハブはスイス国内の研究機関や企業とのネットワークを持っており、日本企業が求めるシーズを効率よく探索できます。また対話を通じて、そもそも探索すべきか否かについてもアドバイスをしています。在日スイス大使館の部局であるため、費用が掛からない点もメリットです。さらには既に多くの企業が探索しているシリコンバレーやイスラエルなどと比べ、スイスはまだまだ開拓されていません。それでいて、AI、デジタル、ヘルスケア、フィンテックなど先進的な分野のシーズに溢れていることから、まさに穴場と思われます。

探索によってパートナーが見つかったあとは、協業プロジェクトの実行に移ります。ここで羽山氏が重視するのが、適切なコミュニケーションであり、そのための「文化的な距離の近さ」です。羽山氏の個人的な経験では、「スイス人は日本人が意外にも似た気質/性格を持っている」と感じています。穏やかで、ルールを守り、信頼を重視し、仕事へのプロ意識を持つ、といった文化的な距離の近さは信頼関係を築く上でとても重要で、プロジェクトの成否を左右するといっても過言ではありません。

 

イノベーション大国としてのスイス

スイスは資源や農地に恵まれず、フランス、ドイツ、イタリアなど周辺の大国と比べ、歴史的に大きな産業がうまれてきませんでした。そのために国民は努力を重ね、近代以降は金融や時計製造などにより、独自の発展を遂げてきました。こうした歴史が、教育と研究開発を重視し、積極的にイノベーションを推進する国の考え方につながっています。

また、永世中立国という背景から、「どの国にも偏らず中立的である」という特徴を持ちます。例えば、国同士がしばしば敵対関係になったフランスやドイツの研究者が共同研究を進めるには、スイスは適した場所でした。そして、有益な研究がうまれれば、世界中から資金調達が可能な土壌が備わっているのです。

羽山氏がスイスで目の当たりにした多様性と充実した研究環境は、世界中から才能と資金が豊富に集めることで発展してきたスイスの歴史そのものなのです。

 

スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部のイノベーション・アドバイザーとして

私は10数年間オープンイノベーションに関わってきましたが、その私から見てもスイスは日本企業の協業パートナーとして大きなポテンシャルを持っていると感じています。ぜひご一緒にスイスのシーズを探索してみませんか?

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
羽山友治(はやま・ともはる)氏略歴
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。2009 - 2017年 複数の日系 / 外資系化学メーカーでの研究 / 製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者にて技術探索活動に従事。2018年から日系一般消費財メーカーでオープンイノベーション活動を推進中。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。

 

共有する