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楽天メディカルとスイスのメドライトがともに目指す「がん克服。」

楽天メディカルは、2020年8月にスイスの医療機器メーカーであるメドライトを買収したことを公表しました。両社がグループとして、ともにがん治療に取り組む意義を、楽天メディカルの小玉裕之氏に聞きました。

2020年8月に楽天メディカルがスイスの医療機器メーカーであるメドライト社を買収。その背景と今後の展望を楽天メディカル社にインタビューしました。
2020年8月に楽天メディカルがスイスの医療機器メーカーであるメドライト社を買収。その背景と今後の展望を楽天メディカル社にインタビューしました。

楽天メディカルは、2020年8月にスイスの医療機器メーカーであるメドライトを買収したことを公表しました。楽天メディカルは先駆的ながん治療の開発に取り組むグローバル企業で、2010年、米国カリフォルニア州サンディエゴでアスピリアン・セラピューティクスとして創業しました。2013年に、楽天グループの三木谷浩史氏が個人として出資し、2019年に楽天メディカルに社名変更されています。米国本社のほか、日本、台湾、オランダ、スイスに拠点を持ちます。

メドライトは、1997年にスイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)のスピンオフ企業として創設されました。強みを持つ生体内での光の伝達、拡散制御に関する技術は、光線力学的治療法(PDT)のための機器の部品をはじめ、さまざまな分野に応用されています。

両社がグループとして、ともにがん治療に取り組む意義を、楽天メディカルの小玉裕之氏に聞きました。

先端のがん治療を実現するため必要だったグループ化

楽天メディカルはがん克服。」のミッションのもと、国や貧富の差にかかわらず、患者さんがより良いがん治療にアクセスできる医療エコシステムを構築することを目指していますアメリカ国立衛生研究所に属する米国国立がん研究所で小林久隆先生らによって開発されたがん光免疫療法をした「アルミノックス™(Alluminox™)プラットフォーム」と呼ぶ技術基盤をベースに医薬品・医療機器の開発を進めています。「アルミノックス™プラットフォーム」とは、光に反応する物質を含んだ薬剤を投与し、特定の波長の光を当てることにより薬剤活性化させ、がん細胞を壊死させる特殊な治療技術基盤あり、技術のライセンス取得時には他にも多くの企業が候補として挙がったものの、米国国立がん研究所の「新しいスタートアップ企業に新技術を提供し、育成する」という理念のもとに、楽天メディカル(当時はアスピリアン・セラピューティクス)がライセンスの取得に成功し、現在のビジネスに繋がっています。

「アルミノックス™プラットフォーム」を用いて開発する治療法にはレーザーが発する光を患部まで届けるため、カテーテルおよびディフューザーという機器が必要です。メドライトの光伝達・拡散を制御する技術は世界有数であり、以前から楽天メディカルと連携し、医療機器の製造に取り組んでいました。

「世界に先駆けて日本で上市するにあたり、医療機器の安定供給は大変重要な要素でした。メドライトには製品のみならず企業として信頼を置いていましたし、製造を受発注する関係ではなく、グループとして一体となるべきだと考え、楽天メディカルから積極的にアプローチして買収に至りました(小玉氏)」。

メドライトとの買収交渉は、コロナ禍のなかで行われました。対面での議論が難しい状況ではありながら、すでに付き合いが深かったこともあり、非常にスムーズにコミュニケーションが進んだと、小玉氏は振り返ります。「メドライトを率いるローランド氏は治療の基礎となる科学に対して非常に真摯に取り組む人柄で、また欧米企業との協業経験や日本での共同研究経験もあり、多くの人が関わるポストマージャーインテグレーション(買収後の統合)もうまくいきました。現在の米国と欧州の地域を跨ぐ運営上のやり取りも大変円滑に進んでいおり、またグループ内の新たな技術開発の核の一つとなっており、グループとして迎え入れられたことを有難く思っています(小玉氏)」。スイス人は真面目で几帳面な部分が多く、どこか日本人に近い気質を持っています。それでいて、新しい技術の開発や吸収に対しては貪欲なところが、楽天メディカルとの相性が良かった理由かもしれません。

2020年9月、「アルミノックス™プラットフォーム」を基に開発された医薬品・医療機器は、イノベーション促進を目指す条件付き早期承認制度の下、世界戦略の一つとして日本で承認を得ます。コマーシャルフェーズに入った同社は、当面の課題を、「メドライトが提供する機器は専門性が高く唯一無二の製品であるため、患者さん一人ひとりの治療をしっかりサポートするために十分な医療機器を確実に届けることを最優先している(小玉氏)」とし、また、将来の他国での展開も視野に入れて準備を進めています。「アルミノックス™プラットフォーム」を基に開発された医薬品・医療機器を用いた治療はこれまでにない治療法のため啓蒙活動が重要ですが、各国医師の期待は高いと、同社は手応えを感じています。

日本の患者さんに先端的ながん治療を提供し、その実績を足がかりに世界中に広げていくために、スイス発のイノベーションがカギとなります。

楽天メディカルとメドライトの合流後、コロナ禍で顔を合わせられる機会は多くありませんでしたが、収束すれば活発に行き来できる状況に戻るでしょう。「大きな目標に向けて、肩を並べて開発に取り組んでいきたい」と小玉氏は、力強く語りました。

日本×スイスのオープンイノベーション

メドライトと合流したおかげでわかったことですが、同社が位置するスイス西部はスイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)を中心に、優秀なエンジニア部材のサプライヤーが集まっています。サプライチェーンを構築する上で地の利を感じています。

小玉氏が言うように、スイスのローザンヌはライフサイエンス、バイオ産業が盛んな地域で、メドライトのような優秀なスピンオフ企業も少なくありません。また、スイス国内の他の地域でもオープンイノベーションへの取り組みは活発で、実行力のあるパートナーを常に求めています。楽天メディカルによるメドライトの買収は、その成功事例のひとつともいえるでしょう。

 

 

理想の技術レベルの到達や製品開発の実現に向けて


楽天メディカルによるメドライトの買収事例は日本にも拠点のある米国発スタートアップ企業のアプローチでしたが、スイスでは、高い技術と創造意欲を備えるスイス企業やスイスの研究機関が、日本企業との協業や共創を希望する場合も多くあります。スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部では、継続して日本企業への情報提供を行い、実際の進出をも支援しています。これからも日本企業が目指す理想の技術レベルの到達や製品開発の実現に向けて、スイスの大学、研究機関、先端企業の情報などを積極的に紹介していきたいと考えています。(スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部長 松田俊宏)


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小玉裕之氏
楽天メディカル株式会社 デバイスソリューション統括本部長、並びに欧州本社マネージングディレクター 博士(理学)
生体分子を用いたナノマテリアルの研究、その後ヒト遺伝情報の翻訳機構の研究に取り組み博士号取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィスにて、ヘルスケア分野等のオペレーションを中心にコンサルティング業務に従事。三井物産・米NovaQuest Capital Managementにて医薬品・医療機器開発への投資を経て2019年4月より楽天メディカル入社。現在、同社欧州代表を務めるとともに、グローバル医療機器事業を統括している。

楽天メディカル社
楽天メディカル社(本社: 米国カリフォルニア州 サンディエゴ)は、アルミノックス™プラットフォームと呼ぶ技術基盤を基に、薬剤と光を組み合わせた、がんをはじめとした様々な疾患に対する新しい治療法の開発を行うグローバルバイオテクノロジー企業です。世界中の一人でも多くの患者さんに、一日も早く、私たちの革新的な治療法をお届けすることにより「がん克服。」というミッションの実現を目指します。https://rakuten-med.com/jp/

メドライト社
1997年スイスで創業したメドライトは、光の伝達、拡散に関する技術に強みを持つ企業で、光線力学的治療法(PDT)のための機器の部品をはじめとし、循環器系、パーキンソン病、眼球疾患などに関する光学診断や、臨床試験の試薬表示など品質管理などさまざまな分野で応用が可能な技術を有しています。https://www.medlight.com/

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